大阪地方裁判所 昭和30年(ワ)4326号 判決
証拠によれば、原告よりの債務の弁済が怠られていたので、被告は原告に対し昭和三〇年五月二八日、原告が弁済をするかさもなければ少なくとも延滞している利息を支払わなければ、予約にもとづいて本件建物を取得する旨の通告をなしたところ、昭和二九年六月二九日、原被告間において右債務の支払い方法について協議を行うにいたり、その結果原告は本件建物を右債務の支払いに代えて被告に譲り渡すことを承諾するにいたつた事実を認めることができる。
つぎに右代物弁済契約が民法第九〇条に違反するか否かの点について判断するに、証拠によると、右消費貸借契約の際、原告は金五〇万円の借用を必要としていたので、その旨訴外柳原彌三郎を介して被告に申し入れたところ、被告はこれに応じて金五〇万円を原告に貸付けたが、当時原告は被告より借りていた別口の金銭消費貸借債務の利息の未払分がすでに金一五万八千円に達していたので、原告了解のうえ、前記五〇万円と右利息との合算額六五万八千円を債権額とし、利息を一年一割五分、遅延損害金を日歩八銭と取り決めたことが認められるから、前段認定の代物弁済契約は、右金六五万八千円及びこれに対する約定利息に対してなされたことを認めることができる。又本件建物には、室が二六室あり、いずれも賃貸しているが、各室とも、四畳半は一室につき金一万七千円、六畳は一室につき二万円づつの敷金をとつて原告が賃貸したもので、被告は本件建物の所有権と共に右敷金債務をも承継したものであつて、少なくとも金一万七千円の二六倍である金四四万二千円の敷金債務を負うに至つたことが認められるところ、一方鑑定の結果によれば、前記代物弁済のなされた昭和三〇年六月二九日における、本件建物の、各室の賃借人から預つている敷金債務を買主が承継しない場合の時価は金一五二万五四四〇円であることが認められる。従つて右鑑定による本件建物の時価より、右敷金の額を差引くと、価格は金百八万円強となる。
ところで、一般に代物弁済の方法によるときは、現金で支払うのと異なり、目的物の換価に時日と手数を要するところから、債権額を多少超えるねうちのある物の引渡しが行われるのが通常であり、特に不動産を受渡しする場合には、その換価方法の動産に比して容易でないところから、より以上に債権額を上廻る不動産の所有権が移転されても債権者の採算の見地から見るならば、右価格は相当割引して考察の対象とするのが相当であるところ、右の観点よりすれば、本件の場合は元金だけについて検討してみても金六五万八千円の債務の支払いに代えて金一〇八万円強の建物を引渡したのであるから、未だ不相当な暴利行為というべきほどのものでなく、勿論民法第九〇条には違反しない。